セルフマッサージは彫刻家の仕事と似ている

「あ〜疲れた。マッサージに行きたいな」と思うこと、ありますか? 

わたしも、プロによるマッサージは好きです。極楽です。でも今日は、自分の身体を自分でマッサージすることをおすすめしたいのです。


人に頼むのではなく、自らの手を使って自分の身体をマッサージすることで、思わぬ気づきがあります。できれば質の良いオイルも使って。すると、思いもかけない変化が、身体にも心にも生まれます。もしかしたら、人生が変わるかもしれないほどに。

わたしがセルフマッサージを習慣にしたのは、ヨガセラピスト資格取得2年間のトレーニングも半ばを過ぎた頃でした。

ヨガセラピーは、慢性的痛みを持つ方や、怪我や手術後のリハビリとして、痛みを減らし、身体の動きをよくするヨガです。個人セッションでクライアントの症状を和らげるセラピー的動きや呼吸法などをご指導します。研修内容は多岐にわたり、解剖学など身体のこと、トラウマや心のこと、そしてヨガの姉妹科学であるアーユルヴェーダという古代インド伝承医学の理論も学びます。

冬のある日、研修の一環として、仲間同士で互いの身体に触れてクライアントに対するのと同じように実習をすることになりました。しかし、当初のわたしは、これが全くできなかったのです。

気心の知れたクラスメートなのに、いい大人が半ベソ。相手の身体に触れることが怖くて、身動きできない!

いまでは笑い話ですが、これには理由がありました。

その約3年前、わたしは乳がん再発の手術で、胸に大きな傷が残り、術後しばらくは裸の姿を鏡で直視することもできないほどでした。もちろん、身体の傷は数ヶ月で治りましたが、心の傷はまだ癒えていなかったのです。

片胸がなくても「わたし」という人間は変わらないし、女性らしさが失われることもない。

頭では分かっていても、病気で自己イメージは崩され、心のなかで折り合いがついてなかったのでしょう。

結婚して3人の子持ちなのに、浮かんだ言葉は

「あー、もうデートとか無理だな。新しい恋人候補にドン引きされそう」

(夫よ、ごめん!)

自分の身体だけでなく「人に触れるのが怖い」という形で、わだかまりが出現するとは思いもよりませんでした。

師匠が言ったことは

「人に触れるのが怖いなら、まずは自分の足だけ、フットマッサージから毎日続けてごらん」

なぜ、セルフマッサージ???と疑問に思いつつも、他人の身体に触れなければセラピスト失格です。素直に師匠のすすめどおり、マッサージを始めました。

セルフマッサージはアーユルヴェーダの数ある習慣のひとつ。古代の教えでは、老若男女だれでも定期的に行うことが推奨されています。しかし、当時のわたしは理論だけを学び、分かったつもりで実践していなかったことが、師匠には見えていたのかもしれません。

すすめに従い毎日続けていくと、はじめは足しかできなかったのが、触れても大丈夫な部位が広がっていきます。怖くて直視できなかった胸の傷にも、触われるようになっていきました。

そのうちに、足が冷えて眠れない冷え性も改善され、体調も良くなってきます。全身セルフマッサージも問題なくなった春の頃には、わたしの内側で何かが溶けるような感覚がありました。

そして、研修仲間に再会する初夏には、冬のエピソードが笑い話になるくらい、他人の身体に触れることも問題なくなりました。

じわじわと気づかぬうちに起こった変化ですが、わたしの場合、セルフマッサージで新しいアイデンティティが生まれた実感があります。

傷のある身体でも大丈夫。良いところもダメなところも、すべて含めて「まるごと」の自分を受け入れよう……そんな静かな変容となりました。

マッサージで手をかけることが新しい「わたし」の心身を造形し、わだかまりを彫り捨てることができたと感じています。


皮膚は身体の内と外を分ける境界線です。その肌を自らの手で撫でたり、さすったり、マッサージすることには、心身両面でさまざまな効用があります。

まず血行促進、関節の動きも良くなり、冷えの解消など、直接的な効果が現れる。

肌を撫でると副交感神経の働きが優位になり、ゆったりモードになる。ストレスが和らぐ。

さらには、わたしの体験のように、安心感がうまれる、自己肯定感が上がる、など目に見えない変化さえおよぼす。

ここで、ヨガの言葉であるサンスクリット語源をみると、興味深いことがわかります。

オイルマッサージ後のようなしっとりお肌の状態を「スネハー」といいますが、その言葉には「優しい思い・フレンドリー・愛」という意味もあるのです。

オイルでのセルフマッサージとは自分を慈しむ習慣だという視点が、言葉の背景から伺えます。


自らの手でセルフマッサージをするとは、彫刻家がダビデ像の均整のとれた身体を作り上げていくプロセスに似ています。

わたし自身セルフマッサージによって、自分を慈しみ愛する習慣を身につけ、自己イメージ、ひいてはアイデンティティが変わりました。

無事研修を終えて、セルフマッサージを人に教える立場になってから、この習慣で変わっていくクライアントや生徒さん達を見てきました。さざ波効果で、まわりとの人間関係まで変わる方も少なくありまあせん。

だから、言わせて下さい。セルフマッサージは、真の意味での彫刻家の仕事と似ている。

「どんな石の塊も内部に彫像を秘めている。それを発見するのが彫刻家の仕事だ」

とはルネッサンスの巨匠ミケランジェロの言葉。

マッサージをしながら、関節をクルクル丸く撫で、腕や脚は骨の長さに沿って両手を動かすこと。それが身体を、心を造形していく。また「わたし」と「まわり」にしなやかな境界線を作る。たかがマッサージが人生を変えることもあるのです。


最後に、もうひとつ、ミケランジェロの言葉を引用します。

「私は大理石の中に天使を見た。そして天使を自由にするために彫ったのだ」

あなたの中にも、天使のように軽やかに飛び立とうとする何かが眠っているはずです。その何かを解き放つためにも、セルフマッサージを試してみませんか?

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Mariko Lavender-Jonesがん